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いだいなるゆめ

偉大なる夢

江戸川 乱歩

「日の出」新潮社、1943(昭和18)年11月~1944(昭和19)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 117,988 字 · 234 页

青空文庫

新一は口端に微笑の影を浮かべて、意味ありげに答える。

南博士の妹の京子は、二人のそういう会話に加わることもあった。彼女は別に意見を吐くのではない。ただ不安らしい顔をして二人の恐ろしい話を聴いているばかりである。京子は顔色がよくなかった。新一の頬に痩せが目立つにつれて、彼女の面ざしにも窶れが加わって行くように見えた。しかし、一方では設計の事業が着々として進捗していた。陸軍省の肝煎によって、××温泉場から程遠からぬ新設航空機工場の一部が五十嵐超高速機試作のために提供せられ、工作機械、工員などもすっかり準備が整っていた。その工場の製図室には三十人の腕利きの製図技手が製図板を並べ、夜を日についで仕事を進め、製図の完成した部分品は直ちに外部に註文が発せられ、その製品がボツボツ工場に到着しはじめていた。

これという出来事もなく日がたって行く。見えぬ敵はここ数日鳴りをひそめていた。再三の攻撃に何の得る所もなく、防禦軍の鉄壁の陣に辟易して敵は旗を捲いて退散したのかとさえ思われたが、実は決してそうではなかった。彼は最後の攻撃準備に時を費していたのだ。敵は従来とは全く異った角度から、無謀残忍な突撃を敢行し、遂に事態を凄惨極まりなき破局へと導いたのである。