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いだいなるゆめ
偉大なる夢
江戸川 乱歩
「日の出」新潮社、1943(昭和18)年11月~1944(昭和19)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 117,988 字 · 234 页
犯人は大きな目を見はって張り番をしている数人の憲兵の前を通過しないでは、そこへ出入りすることは不可能であった。しかも憲兵は誰一人犯人の影さえ見なかったのである。隠れ簑はお伽噺の世界のものである。しかし何かそういう風な術を、例えば人間の身体が透明になるというような、奇怪な術を犯人が心得ていたとでも想像する外に考え方がなかった。
三好曹長は、その詳しい内容は無論聞かされていなかったけれど、五十嵐博士一行が山荘に立てこもって、この戦局を一挙に左右するほど重要な兵器の設計に従事していることは、十分承知していた。したがって、この犯罪が国家にとって、軍にとって、如何に重大なものであるかもよく分っていた。
「こいつは一通りの犯人ではないぞ。余程の覚悟をしなくてはならんぞ」
曹長は汽車の中で、何度となく自分自身に云い聞かせた。この犯人を捉えるかどうかは、前線の将兵が敵の拠点を占領するかしないかと同じくらい重大であった。イヤ、全戦局を左右する発明という点から云えば、そんな比較ではまだ軽すぎる。
「俺は今、ただ一人で数万の敵軍に向かって突進しているのと同じだぞ」
と考えると、曹長はその任務の重さに、武者振いを禁じ得ないのであった。