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いだいなるゆめ

偉大なる夢

江戸川 乱歩

「日の出」新潮社、1943(昭和18)年11月~1944(昭和19)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 117,988 字 · 234 页

青空文庫

三好は、その黒い人影に駈け寄って行った。

パッと視界が明るくなった。第一の模擬焼夷弾が鎮火するのを待って、第二の模擬焼夷弾に点火せられたのだ。エレクトロンの白熱の火花が飛び散り、その火光が真正面から韮崎と教えられた男の雄姿を照らし出した。

これはまた異様な風体である。真黒な国民服に黒の脚絆、鉄兜はなくて、黒ラシャ製の婦人用防火頭巾のようなものを、まぶかに冠っている。その中から防空眼鏡の大きなガラス玉がギラギラ光り、鼻下には美しい八字髭がピンとはね上っている。北村刑事から聞いていた通りの堂々たる美丈夫である。

訓練はそれから三十分ほどで終り、警防団員の講評があった。その間、三好憲兵は韮崎の身辺を離れず、彼の一挙一動を見守っていたが、散開となり、一同がそれぞれの家庭に引上げる時となって、その虚を突くように、彼は韮崎の側に寄って行った。

「韮崎さんですね。お疲れのところを恐縮ですが、一寸お話ししたいのですが」

丁寧に声をかけると、韮崎は立ち止まって、三好を見おろすようにして、落ちついた声で答えた。

「どなたですか」

「三好というものです。憲兵隊のものです」