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いだいなるゆめ
偉大なる夢
江戸川 乱歩
「日の出」新潮社、1943(昭和18)年11月~1944(昭和19)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 117,988 字 · 234 页
ズバリと云ってのけたが、相手は別段驚く様子もなかった。
「どういう御用ですか」
「少しこみ入った話があるのです。立話も何ですから、差支えなかったら、あなたのお宅で」
「アア、そうですか。ではどうか」
韮崎は先に立って歩いた。逃げ出す気配が見えたら引っ捉えようと、気をはりつめていたが、そんな様子もなく、ゆったりと歩いて行く。
門を入って、暗闇の玄関にたどりつくと、ギイイイイと軋む音を立てて扉が開かれた。廊下は真暗で、どこかの部屋の電燈が、扉の隙間から帯のような光を投げている。
韮崎はコツコツと靴音を立て、その電燈のある部屋に近づき、扉を開いて憲兵を招じ入れた。
装飾も何もない、ガランとした広い部屋である。その真中に四角な卓が一つ、その四方に籐張りの廉物の椅子が一つずつ置いてある。
ただ一つ正面の壁に縦三尺ほどの大きな額が懸っている。それが、この殺風景な部屋の唯一の装飾である。
三好曹長はその額を見ると、ハッと立ちすくむほどの驚きに打たれた。日本国内にこういうものが麗々しく飾られていることは、何人も予期し得ないことであった。全くの不意打ちであった。憲兵と知りながら、こういう部屋へ案内した韮崎の心持を推し兼ねて、さすがの三好曹長も狼狽を感じないではいられなかった。