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いだいなるゆめ
偉大なる夢
江戸川 乱歩
「日の出」新潮社、1943(昭和18)年11月~1944(昭和19)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 117,988 字 · 234 页
お前は明日から警視庁の翻訳係をやめるんだ。いいか。そして、わしの助手をやって貰わなくちゃならん」
「エ、勤めをやめるって?」
新一はあっけにとられて、まるで別人のようにはしゃいでいる父の顔を眺めた。彼は今まで父にこんな躁狂的な多弁な半面があろうとは、少しも知らなかったのである。
「ウン、マアいいからそこへ坐れ。話があるんだ。びっくりするような話があるんだ。お前がびっくりするばかりじゃないよ。日本中がびっくりするんだ。イヤ、世界中がびっくりするんだ」
新一は長椅子に腰をおろして、心配らしく父の顔を見つめた。五十嵐氏はその前を行ったり来たりしながら、狂人のように喋べりつづける。
「新一、お前は顔がお母さんに似ているばかりじゃない。心持もお母さんそっくりだ。わしとは顔も性格もまるで違う。何となくうちとけない親子だった。お前とはついぞしみじみと話をしたこともなかった。だが、今夜は何もかも打ちあける。新一、お前もお母さんも、このわしが何者であるか、少しも知ってはいないのだ。むろん、七年前、城東航空機製作所をやめるまでの、工学博士五十嵐東三については、お前達もよく知っていた。