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ぼんじんでん
凡人伝
佐々木 邦
「雄辯」大日本雄辯會講談社、1929(昭和4)年4月号~1930(昭和5)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 98,944 字 · 202 页
私は後任のお鉢が廻って来る積りで待っていたが、その分は新来のロビンソン氏が教えることになって悉皆当てが外れてしまった。立花君は私を瞞したのでない。一番が前任なら二番が後任だろうと簡単に信じていたのだ。私はその当座三十五円の先取権を空しく棒に振ったように思ったが、それは失敗のようで実は成功だった。私は間もなくロビンソン氏の宅に住み込んだ。日本語を教えると同時に、氏について生きた英語を研究した。約二年間殆んど英語ばかりの生活をしていたから、自然に力がついた。
「君は長くアメリカにいる日本人よりも好い英語を話す」
とロビンソン氏が褒めてくれた。西洋人はお世辞が上手だから、大抵こんなことを言う。しかし可なり得るところがあった証拠に、中等教員の検定試験を出色の成績で通過して、忽ち彼方此方から引っ張り凧になった。猪股先生は辞を低うして、
「河原君、何うですか? 東京にいて母校の為めに尽して下さいませんか?」
と頼み入った。しかし凡人は二年前のことを根に持っていた。
「駄目です。僕は経験がありません」
「いや、結構ですよ」
「それに信仰がグラついているんですから、学園の教師として適任でありません」