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ぼんじんでん

凡人伝

佐々木 邦

「雄辯」大日本雄辯會講談社、1929(昭和4)年4月号~1930(昭和5)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 98,944 字 · 202 页

青空文庫

あんなことは迷信ですよ」

「いゝえ。私が行者に頼んで除けをしたからですわ」

「はゝあ、少し利き過ぎましたね」

「十人生れて一人も欠けないなんてことは滅多にありませんよ。私は降っても照っても毎日八幡さまへお詣りをしますからね」

「はゝあ、それも利いているんでしょう」

「耶蘇になったからって氏神さまを棄てるようじゃ駄目ですよ。皆してお礼詣りに行っていらっしゃい」

と母親は信心家だ。私は早速妻子を連れて出掛けた。途中数名の知った顔に出会った。その中に小学校時代の喧嘩相手国分君がいた。挨拶は交したものゝ、私達をやり過してから、

「耶蘇の会かやあ? それとも皆友さんの子かやあ?」

と大きな声で同伴の男に言った。或は諢ったのでなくて、本当に然ういう疑問が起ったのかも知れない。或日、母親が、

「友一や、お前は能く学校が勤まるね?」

と訊いた。

「何故ですか?」

「家の中がまるで運動会のようですもの。私は頭が痛くなってしまいますよ」

「大勢でさぞ御迷惑でしょう」

「可愛いには可愛いけれど、私は迚も東京へなんか行けませんよ」

「それは困りましたな。お父さんは何ういうお考えでしょうか?」

「もう少し長生をしたいって言っていますわ」