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ぼんじんでん
凡人伝
佐々木 邦
「雄辯」大日本雄辯會講談社、1929(昭和4)年4月号~1930(昭和5)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 98,944 字 · 202 页
私は組み伏せられた上に、散々撲られた。
「これに懲りて些っと気をつけろ」
と国分が言った。
「…………」
「学問の出来るのを鼻にかけるな」
「…………」
「品行方正を自慢にするな」
「…………」
「能く考えて見ろ。貴様には尋常一年の時から恨みが積っているんだ」
「…………」
「おれ達はな、退校される覚悟で出て来たんだ」
「…………」
「先生に言いつけろ。その代り月夜の晩ばかりはないぞ」
とこれは、内済の申入れだった。私は黙っていた。四人のものはもうそれ丈けで各自床へ潜り込んだ。予定の行動で方々から私の枕元へ這って来たのだった。
一寸の出来事が一生を支配する。師範へ行く筈だった私が明治学園へ入って、三十余年後の今日、凡人伝を思いついて筆を執っているのも遠く静岡の宿屋の一晩に起因する。私は遠足から帰ると直ぐに、
「お父さん、僕は高等二年が済んだら直ぐに中学校へ行きたいです」
と申出た。
「中学校?」
「はあ」
「お前は師範へ入る積りだったじゃないか?」
「師範は高等を卒業しなければ入れないから厭です。それに僕は豪い人になりたいんです」
「それは結構な心掛だが、中学校丈けじゃ中途半端で困る」