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ぼんじんでん
凡人伝
佐々木 邦
「雄辯」大日本雄辯會講談社、1929(昭和4)年4月号~1930(昭和5)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 98,944 字 · 202 页
「それもいけません」
「先生、何うすれば宜いんでしょう」
「聖書を読んで能く考えて見るんですな。追々分って参りましょう」
「僕は先生に伺えば何でも直ぐに分ると思いました」
「何が分るものですか。皆神さまが教えて下さるのです。友さん、さあ、一緒にお祈りをしましょう」
「僕、耶蘇になるんですか?」
と私は慌てたが、占部さんはもう祈り始めた。神さまの御指導によって正しい道が歩めるようにということだった。それなら何も差支ない。私は聖書を貰って、能く考えて見ることに納得した。
当時私は国分が唯一の問題だった。早く中学校へ行きたいのも主として此奴の為めだった。今から思うと真に詰まらないことだが、子供の頭は大人と違う。学校が厭になって時々愚図を言った。父親から依頼があったと見えて、先生は私を褒めなくなったが、国分は相変らず私を目の敵にしている。それも正面からは向って来ない。必ず遁げ路を拵えて置いて諢う。
「窮鳥懐ろに入る時は猟師も之を殺さず」
という諺を読本で覚えた当座、国分は、
「級長」
と私を呼んで、
「何だい?」
と答えさせて、
「君のことじゃないよ。懐ろに入った窮鳥のことだよ」