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ぼんじんでん

凡人伝

佐々木 邦

「雄辯」大日本雄辯會講談社、1929(昭和4)年4月号~1930(昭和5)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 98,944 字 · 202 页

青空文庫

私は先方の匿している年を正面から訊いてかゝるくらいだから、遠慮がない。その結果、この年長者連中に馴染んで、殊に長谷川さんと仲好しだった。随分我儘を言っても、年が違うから喧嘩にならない。

「仕方がない奴だなあ」

と諦めてくれる。三年生になってからのことゝ記憶するが、或日長谷川さんが、

「河原君、君は耶蘇だってね?」

と訊いた。

「耶蘇じゃないです」

「然うかい。それなら宜いけれど」

「耶蘇なら悪いんですか?」

と私は少し癪に障って、

「悪いさ」

「何故悪いんですか」

「耶蘇は西洋の宗教だもの。日本中が耶蘇になれば、日本は西洋に取られてしまう」

と長谷川さんは極くありふれた偏見に囚われていた。私は占部牧師に敬意を表している関係上、自分が耶蘇でなくても、耶蘇を悪く言われると好い心持がしない。

「長谷川さん、そんな馬鹿なことはありませんよ」

と早速駁撃を加えたのが事の起りだった。十六の少年と二十二の青年だから段が違う。私はその都度やり込められる口惜しさに、占部牧師を訪れて教を求めるようになった。

「河原は耶蘇へ行く」

「耶蘇だよ、彼奴は」

という評判が立った。

「よし。それなら耶蘇になってやる」