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きゅうけつき
吸血鬼
江戸川 乱歩
「報知新聞夕刊」1930(昭和5)9月30日~1931(昭和6)3月12日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,554 字 · 381 页
「駄目だ。俺はやっぱり駄目な男だ」
彼は力ない声で独言の様に呟いたが、
「覚といて下さい。僕がこうして二度目にここへ来たことを。ね、覚といて下さい」
といったかと思うと、突然クルッと向きを変えて、走る様に部屋を出て行ってしまった。
「あなた、気がつきましたか」
三谷と倭文子とは、いつの間にか座敷に這入って、ピッタリと身体をくっつける様にして坐っていた。
「あの男はふところの中で短刀を握っていたのですよ」
「マア!」
倭文子は不気味相に、一層青年にすり寄った。
「あの男が可哀相だとは思いませんか」
「卑怯ですわ。あの人は危い命を、あなたの、本当に男らしい、御心持から、助けて頂いたのではありませんか。それに……」
岡田に対する極度の軽蔑と、同時に三谷に対する限りなき敬慕の色が、彼女の表情にまざまざと現われていた。
あの毒薬のコップを叩き落したことが、これ程の感銘を与えようとは、三谷も予期しない所であった。
話しながら、二人の手は、いつかまた握り合わされていた。
その部屋は、奇妙な決闘の為に、態と一番不便な、淋しい場所を、宿には無断で、一時使用したばかりで、誰の部屋でもなかったから、女中などが御用を伺いに這入って来る心配はなかった。