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きゅうけつき

吸血鬼

江戸川 乱歩

「報知新聞夕刊」1930(昭和5)9月30日~1931(昭和6)3月12日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,554 字 · 381 页

青空文庫

併し、いくら逃げ隠れたところで、賊は館内から一歩も出られぬことは確だ。出口という出口には、厳重な見張り番が残してあったのだから。

捜索は執拗に続けられた。張りぼての岩をめくり、板張りの床をはぎ、人の隠れ相な隙間を探し廻った。

そして、無駄な捜索が、殆ど一時間も続いた頃、どこからか、けたたましい叫び声が響いて来た。

「オーイ、オーイ」と声を限りに呼んでいるのは、小林少年だ。

何事が起ったのかと、一同が声をたよりに駆けつけて見ると、小林は、菊人形の舞台の外の、薄暗い廊下に立ってしきりと、天井を指さして、譫言の様に、

「文代さんが、文代さんが」

と口走る。そこからは、巨大な丸天井の内側が一目に見えるのだが、その天井を支えた、輻射状の鉄骨に、何かしらブラ下っているのが薄ボンヤリと、小さく見える。確に人間だ。しかも洋装の婦人である。

菊人形の舞台全体を覆うて、青空の感じを出す為めに、一面の空色の布が張りつめてあったから、直接の光線はなかったけれど、少し青味がかった、もやの様な光りが、巨大な丸天井を、奇怪な夢の景色の様に、ぼかしていた。

べら棒に大きな、傘の骨みたいに、輻射状に拡がった鉄骨を、じっと見つめていると、フラフラとめまいがする様だ。