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きゅうけつき
吸血鬼
江戸川 乱歩
「報知新聞夕刊」1930(昭和5)9月30日~1931(昭和6)3月12日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,554 字 · 381 页
誰しもそれを考えた。何というすばらしい活劇であろう。想像したばかりで胸が躍った。
そして、事実飛行機が飛んだのだ。
警視庁は流石に自重して、そんなことはしなかったけれど、ある新聞社が民衆の意向を迎えて、お先走りになって、所有の飛行機を飛ばせた。
その飛行機に搭乗した社会記者は、賊を捕えるのではなくて、大空の雲の中で、この人気者「風船男」の、談話筆記をとるつもりであったかも知れない。
その日第一回のラジオ・ニュースで、このことが、東京は勿論、全国に伝えられた。
「賊をのせた風船は、遂に雲の中に隠れました。……」
という、アナウンサアの一句が、全国のラジオ聴取者を、ドキンとさせた。夢かお伽噺みたいな出来事。それがラジオ・ドラマではなくて、政府の監督下にある放送局の真面目なニュースなのだから、びっくりしないではいられぬ。
人間が二人よれば、風船男の話だ。山の手方面の人達まで、若しやその風船が見えはしないかと、何もない空を見上げる。地方の人々も、気早やの連中は、風船見物の目的で、汽車に乗って、両国駅へ押しよせる程の騒ぎになった。
犯人は、何も最初から、空へ逃げることを考えていた訳ではない。