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きゅうけつき
吸血鬼
江戸川 乱歩
「報知新聞夕刊」1930(昭和5)9月30日~1931(昭和6)3月12日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,554 字 · 381 页
はずみを食って、巻取器が、ひどい勢いで空廻りをし、それにとりついていた数名の警官ははね飛ばされ、あるものは降ってきた繩にうたれて、ころがった。
「ワーッ」
と上る喊声、川開きのどんな立派な花火だって、この奇想天外な風船花火には及ばぬ。
騒ぎずきの東京市民は、ほとんど熱狂して、怪賊の思い切った曲芸を喝采した。うわさは疾風の様にちまたに拡がり、続々とかけつける見物人で、両国橋の東西は時ならぬ川開きの人山だ。
見渡すかぎり、屋根という屋根に、人間の鈴なりだ。
風がなかったので、賊の風船は、一直線に、グングン天上した。見る見る小さくなって、果ては子供のおもちゃのゴム風船みたいになって、とうとう、低い白雲の中へ姿を隠してしまった。
この絶好のナンセンス種に、喜んだのは社会記者だ。ソレッというので、写真器を掴んで、国技館へと自動車が飛ぶ。明智のアパートへ駆けつけるもの、畑柳家へ談話筆記に走るもの。
なにしろ相手は、数人の娘を惨殺して、石膏づめにした、稀代の殺人鬼だ。そいつが風船で天上したのだ。世にこれ程激情的な事件が、またとあろうか。
「飛行機だ。飛行機で追っかけろ」