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きゅうけつき
吸血鬼
江戸川 乱歩
「報知新聞夕刊」1930(昭和5)9月30日~1931(昭和6)3月12日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,554 字 · 381 页
どうしたんでしょう。変だわね」
立聞きの好きな女中が、二階から降りて来て、一同に報告した。
結局、三谷が指図をして、書生に見せにやることになった。
書生が、再三ノックしたあとで、ソッとドアを開くと、そこに恐ろしい光景があった。倭文子が血みどろの短刀を手にして、気違いの様な目つきで、老人の死骸の側にうずくまっていた。
恐ろしい光景を、一目見た書生は、ドキンとして立ちすくんでしまった。
倭文子の方でも、非常にびっくりしたらしく、ちょっとの間、ガラスの様に無情な目を、一杯に見開いて、書生の顔を見ていたが、血みどろの短刀を持った手を、ゆっくり上げ下げしながらさも極り悪そうに、ニヤニヤ笑い出した。
書生は「ワッ」といって、逃げ出したい程の恐怖を感じた。てっきり、女主人は発狂したものと思った。
「奥さん、奥さん」
といったまま、二の句がつげなかった。
書生が階段を、黒い風の様に、音もなくすべり降りて来て、突っ立ったまま、唇をワナワナふるわせているので、一同忽ち兇変を悟った。
ドヤドヤと書斎へ上って見ると倭文子は、まだ元の姿勢で、短刀をゆっくりゆっくり、上げ下げしていた。