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きゅうけつき
吸血鬼
江戸川 乱歩
「報知新聞夕刊」1930(昭和5)9月30日~1931(昭和6)3月12日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,554 字 · 381 页
と、そんなことを思い耽っていた恒川氏は、その時、腰をかけているお尻の辺を、チョイチョイと、突くものがあるのに気づいた。
横を見ると、隣にかけていた、小林少年の手が、自分のうしろへ伸びている。
おかしなことをすると思って、少年の顔を眺めると、彼は目であるものを指し示していた。テーブルの上の、菓子器の中だ。
菓子器の中には、羊羹が並んでいる。見ると、その一つに、誰かがたべさしのまま残しておいたと見えて、かじりかけの歯型が、ハッキリついている。
子供らしい目のつけ所だと、ちょっとおかしくなったが、しかし、子供の直覚は馬鹿にはならぬ。若しもこの歯型が、明智の持っている、賊の歯型と一致したらと思うと、何かしらゾッとしないではいられなかった。
「三谷さん、変なことを聞くようですが、この羊養は誰がたべさしておいたのです。ご存じありませんか」
念の為に聞いて見ると、三谷は妙な顔をして、暫く考えていたが、
「アア、それは、確か倭文子さんです。今朝、あの騒ぎが起る前、ここで僕と二人切りでいる間に、かじったのです。いつもお行儀のいい人が、今日に限ってあんなことをすると、変に思ったので、よく覚えています。