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きゅうけつき
吸血鬼
江戸川 乱歩
「報知新聞夕刊」1930(昭和5)9月30日~1931(昭和6)3月12日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,554 字 · 381 页
窓はすべて厳重に締りが出来ていた。室内に人の隠れる場所とてもない。つまり、現場には、倭文子さんの外に、犯人の入り込む余地がなかったのだ。
といって老人が自殺する道理がない。いくら考えても、倭文子さんの外に下手人はないのだ。
書斎を調べ終ると、二階を降りて、庭に出て見た。これという目的があったのではない。ただ庭園から建物全体を、一度見ておこうと思ったのだ。
ところが、庭に降りて、少し歩いたかと思うと、妙なものにぶつかった。
小牛程もある大きな犬が、庭の隅に倒れていたのだ。いうまでもなく飼犬のシグマである。眉間をひどくなぐられたと見えて、血がにじんでいる。邸内に犬殺しが入り込む筈はない、一体誰が、何の為に、この犬を殺したのか。
不思議に思って、書生や女中達に尋ねて見たが、誰も知らぬとの答えだ。ずっと犬小屋につないであったのが、いつか賊にやられた傷が、ほとんど治癒したので、今朝鎖を解いてやったばかりだと、いうことであった。
そんなことをしている所へ、明智から電話がかかって来た。もう小林少年がアパートの病室へ、帰りついたものと見える。受話器をとると、明智のやや昂奮した声が聞えて来た。