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きゅうけつき
吸血鬼
江戸川 乱歩
「報知新聞夕刊」1930(昭和5)9月30日~1931(昭和6)3月12日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,554 字 · 381 页
おびえ切った茂少年は、倭文子の裾にちぢまって、地獄の鬼めに、母さまを渡すまいと、彼女の膝小僧を、しっかり抱きしめ、こっそりとも音を立てず、息を殺して、ブルブルふるえていたが、ふと気がつくと、そのふるえがパッタリ止って、呼吸も静かになっていた。おびえながら寝入ったのだ。幼い肉体は、昨日から一睡もせぬ心労にたえかねて、恐ろしい棺桶の寝床の中で、グッスリ寝入ってしまったのだ。
倭文子は、無邪気な子供を羨むと同時にいくらか気やすさを覚えた。
耳をすましても、何の物音もなく、目には幽かな光さえも見えぬ。身をひそめた棺が、いつの間にか地中に葬られ、上から覆いかぶさった、厚い土の層の為に、光も音も、全く途絶えてしまったのではないかと、怪しまれる程であった。
心が静まるにつれて、麻痺していた末梢の神経が働き始めた。そして、まず鼻をうつのは、ほのかな屍臭であった。
「アア、今の先まで、この中にあの老人の死骸が入っていたのだ。しかも、その老人は、この私が手にかけて、むごたらしく殺したのだ」
今更の様に、彼女はそれを、ハッキリと意識した。
今、彼女の頬にさわっている板の、同じ部分に、さっきまで、死人の頬が当っていたのかも知れない。