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きゅうけつき
吸血鬼
江戸川 乱歩
「報知新聞夕刊」1930(昭和5)9月30日~1931(昭和6)3月12日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,554 字 · 381 页
「君は、亜鉛箱をこのタンクに漬ると、間もなくこの部屋を出て行った。工場の外で、異様な呼笛の音が聞えたからだ。君は若しやと思って、塀の外をのぞきに行ったのだ。あの時のことを覚えているかね」
谷山は、図星をさされて、何かしらギョッとした。どう答えてよいのか分らなかった。
「その君の留守の間に、この部屋で、どんなことが起っていたか、君は少しも知らない様だね」
明智はますます妙な事をいう。
谷山は、キョロキョロと、不安らしくあたりを見廻していたが、何も不安がる理由のないことをさとると、憎々しげにいい返した。
「で、それが一体どうしたというのですね。僕がちっとばかりこの部屋を留守にしたからといって、まさか倭文子達が、逃げ出した訳じゃあるまいし。僕の目的には何のさしさわりもないことだ」
「果してそうかね。君は、僕がここへ来るのに、何のお土産も持って来なかったと思っているのかね」
明智はニコニコ笑って、
「それは兎も角、この部屋の電燈は少し暗過ぎるようだね。すべての間違いの元は、この暗い電燈にあるのじゃないかと思うのだがね」
と、じっと谷山の顔を見た。
谷山は相手の意味を悟り兼てキョトンとしていたが、やがて、何事かに気付いた様子で、突然、非常な狼狽の色を浮べた。