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きゅうけつき

吸血鬼

江戸川 乱歩

「報知新聞夕刊」1930(昭和5)9月30日~1931(昭和6)3月12日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,554 字 · 381 页

青空文庫

……

それから、奇妙な製氷作業が始まったのだ。おれは、この池の縁にしゃがんで、水中の亜鉛箱の中から、かすかに漏れて来る、憎い女の、断末魔の苦悶の声に聞入った。亜鉛箱がビリビリとふるえた。水中からの陰にこもった絶叫が、虫の鳴く様に聞えて来た。アア、それが、おれにとっては、何という微妙な音楽であっただろう。……

そして、今日やっと、この美しい花氷が出来上った。君達に観賞してもらう為に。……おれ一人で楽しむには、もったいない美術品だからね」

谷山はいい終って、ニヤニヤと、顔一杯に悪魔の笑いをただよわせ、さも得意らしく、聞き手の方を眺めた。

「ワハハハハハハ」

極めて唐突に、谷山は勿論、恒川氏でさえも、びっくりした様な、ほがらかな笑い声が、明智の口からほとばしった。

「成程成程、君はそれで、我々をアッといわせたつもりなのだね。僕をペシャンコにやっつけた積りでいるんだね。ところが、案外、そうでもなさそうだぜ。君に聞くがね。君はこの氷柱が出来上る間、絶えずここに見張り番をしていたかね」

明智が、犯人にとっては、何とやら不気味な、えたいの知れぬ問いを発した。

谷山の顔から、笑いの表情が消え失せた。