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きゅうけつき
吸血鬼
江戸川 乱歩
「報知新聞夕刊」1930(昭和5)9月30日~1931(昭和6)3月12日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,554 字 · 381 页
書生は、ガラスに顔をくっつけて、いつまでも覗いている。
「窓をあけて見たまえ」
下から斎藤老人が声をかけた。
「駄目ですよ。内側から締がしてある筈です」
書生がそういって、でも、念の為めに、ガラス戸を押上げて見ると、案外にも、何の手答えもなく、スルスルと開いた。
「オヤ、変だぞ」
書生は呟きながら、窓をまたいで、室内へ姿を消した。
下から見ていると、書生の入って行った窓だけが、まるで巨大な化物の口の様に、ポッカリと黒く開いているのが、何となく不気味であった。
下の一同は、一種の予感におびえながら、耳をすまして、黙り返っていた。
暫くすると、黒く開いた窓の中から、何ともいえぬ、まるで締め殺される様な「ギャーッ」という叫声が聞えて来た。
屈強の書生が、みじめな、鵞鳥の鳴声の様な、悲鳴を上げたのを聞くと、室内には、どの様に恐ろしいことが起っているのかと、斎藤老人を初め、ゾッとして、梯子を昇る勇気もなかった。
「オーイ、どうしたんだア」
下から別の書生が、大声に呶鳴った。
暫くは何の返事もなかったが、やがて、化物の口の様に見える、真黒な二階の窓へ、ボーッと白く書生の顔が現われた。