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きゅうけつき
吸血鬼
江戸川 乱歩
「報知新聞夕刊」1930(昭和5)9月30日~1931(昭和6)3月12日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,554 字 · 381 页
「コラ、待てッ」
警官達は、口々にわめきながら、塀際へと駈けつけた。
怪物はいたずら小僧が「ここまでお出で」をする様な格好で、キ、キ、と不気味な声を立てたかと思うと、塀の向側へ姿を消した。
ある者は塀をよじ昇って、ある者は門を迂廻して、恒川氏と二人の警官とが、怪物のあとを追った。麹町の司法主任丈けは、なお取調を行う為に、邸内に残った。
塀外へ出て見ると、人通りもない屋敷町の、もう一丁程向うを、黒の鳥打帽に、短い黒いマントを飜して、走って行く怪物の姿が、月の光りでハッキリ分る。
読者諸君は、この怪物の左手と右足が、義手義足であることは御存知だ。その不自由な身体で、杖もつかず、エッチラ、オッチラ、走る走る。かつて鹽の湯温泉の長い段梯子をかけ降りた調子である。義足だとて、使いなれると馬鹿にならぬものだ。
警官達は、帯剣を握って走る。もつれる影、乱れる靴音。
月下の大捕物だ。
怪物は、近くの大通りへと走って行く。まだ宵の内だ、賑やかな大通りへ出たら、忽ち捕まってしまうと、高を括ったのは、大きな思い違いだった。
町角を曲った所に、待ち構えていた一台の自動車、怪物の姿がその中へ消えたかと思うと、車は矢庭に走り出した。