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きゅうけつき

吸血鬼

江戸川 乱歩

「報知新聞夕刊」1930(昭和5)9月30日~1931(昭和6)3月12日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,554 字 · 381 页

青空文庫

と題する探偵物語に詳しく記されているのだが、三谷は、予ねて噂を聞いていたので、一目で、これが、素人探偵の、有名な恋人だなと、肯くことが出来た。

明智は客間の大きな肘掛椅子に凭れて、好物のフィガロという埃及煙草を吹かしていた。その紫色の煙幕を隔てて、有名なモジャモジャ頭と、無の、どことなく愛嬌のある混血児の様な顔と、その癖鋭い目とがあった。

美しい文代さんは、よく似合った洋装の裾を飜して、快活に客をもてなした。彼女の小鳥の様な明るい笑声が、このいかめしい探偵事務所に、新婚の家庭の様な華やかな空気を漂わせていた。

三谷は、文代さんの入れてくれたお茶を啜りながら、鹽原温泉以来の出来事を、少しも隠さず、詳しく物語った。

「何もかも訳の分らぬことばかりです。到る所で、あり得ないことが起っているのです。私は妖術なんてものを信じることは出来ません。しかも妖術とでも考える外に、解釈の仕様もない事柄ばかりです」

三谷は憮然としていった。

「巧な犯罪は、いつでも、妖術の様に見えるのです」

明智は、絶えず、一種奇妙な微笑を浮べて、三谷の話を聞いていたが、やっと口を開いた。