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よるのこうず
夜の構図
織田 作之助
「婦人画報」1946(昭和21)年5月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 62,068 字 · 125 页
といいかえてもいい。権威ある思想、神聖なる観念は流行する。猫も杓子もこれに追従するか、もしくはこれを楯に取る。個性がイデオロギーの中に埋没する。信吉は附和雷同しない自分の個性を守るために、敢て「神聖」に挑戦するのである。むろん、彼は一流文学の観念を信じている。しかし、その観念を説く人を信用しない。その人が一流でないという点を、あるいは滑稽に、あるいは不愉快にかぎつけるのだ。だから、敢て二流論を宣伝するのだが、しかし、こういう主張はつまはじきものであろう。しかも、無駄な努力である。賢くなろうという努力をしている――または賢くなろうという顔をしている阿呆に向って、お前は阿呆だから、賢くなろうとするなと説くのが、無駄なのと同じであろう。
そんな無駄なお喋りを、信吉がペラペラと続けていたのは、実は薄井を本来の俗物の地位まで、自分と共にひきずり下したいという天邪鬼からであった。
「――それとも、あなたは自分自身を一流だと思いますか」
喋りつづけて来た信吉は、最後にズバリとそう言った。随分意地の悪い言葉だが、しかし、その前に信吉は、自分は二流だという申告をしていたから脱税行為にはなっていなかった。