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よるのこうず
夜の構図
織田 作之助
「婦人画報」1946(昭和21)年5月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 62,068 字 · 125 页
しかし、どっちでもいいや。プラトンはインキの名です。とにかく逃げた。それだけです。じたばたしたってはじまらない。失敬!」
あっという間に、蜂谷重吉は姿を消してしまった。
その夜、舞台が済んでから、冴子は信吉の部屋へやって来た。
「あたし、もう女優をよすわ」
「どうして……?」
べつに信吉は驚かなかった。冴子の次の言葉が判っていたから。
「あなたのことしか考えられないの。芝居に打ち込めないの。あたしのしたいことって、何にもないって、昼間言ったけれど、本当ね。何にもしたくないわ。ただ、あなたのことだけ考えて、ぼんやりして暮していたいわ」
「考えるだけでいいの……?」
「結婚したいわ」
「誰と……?」
「あなたは冷静ね」
「そうかな」
ちょっと狼狽した。
「ねえ。あたしを大阪へ連れて行って下さらない」
「いやだッ!」
「どうして……?」
冴子は半泣きの顔になった。
「来れば、不幸になる」
「不幸になってもいい。どんなにひどい目に会ったって、かまわないわ。あなたと一緒に行きたいの。傍にいたいの。それだけでいいわ。――ねえ、いけない……?」
「はっきりいうがね。僕は、何にも誓えない人間なんだ」