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よるのこうず

夜の構図

織田 作之助

「婦人画報」1946(昭和21)年5月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 62,068 字 · 125 页

青空文庫

途端に、

「あ、須賀さん!」

と、冴子の声が来た。やはり来た。

「――おはいりになりません?」

これも予想通りだった。が、あまり予想通りだったことが、信吉をふと寂しくさせた。われながらいや気がさすくらいだった。情けなかった。

傘の中にはいると、

「この劇、映画になるんですってね」

「へえ? そうですか」

わざと驚いてみせた。

「おききになりませんの」

「いや、さっき一寸そんな話出てたが……ところであなたはどこまで……?」

「本郷ですの」

「じゃ、三原橋まで着せていただけるわけですね。僕、新橋ですから、三原橋で……」

「第一ホテルですって……?」

「ええ。よく知ってますね」

「楽屋中で評判よ」

「えっ?」

信吉はどきんとした。ホテルでのことを全部知られたのか。

「須賀さん、どこに泊っていらっしゃるだろうって、楽屋の老嬢連、ひどく関心持ってたわ」

信吉はほっとした。

「――もう綽名までついていますわよ」

「煙突……?」

ノッポだった。

「いいえ、芥川龍之介」

「へえ――?」

「若くって、才人で、スタイルがよくって……いや、眼よ、眼よ。眼が似てるのね」

「何にしろ、芥川龍之介が生きておれば僕に決闘を申し込むでしょう」