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よるのこうず

夜の構図

織田 作之助

「婦人画報」1946(昭和21)年5月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 62,068 字 · 125 页

青空文庫

笑いながら、三原橋の停留所まで来た。電車はなかなか来なかった。

「どうぞ――。遅くなると悪いから……」

「ええ。でも電車が来るまで……」

冴子は傘をさしてくれていた。

「どうも、雨の夜、電車を待っているってのは、寂しいですね。僕も何だか昨日にくらべると、一躍有名になったみたいだけどこうしてしょぼんと雨に吹きつけられて電車を待っていると、人間って奴は案外寂しいもんだなアという気がする」

信吉はふとそんなことを言った。実感であった。冴子はだまって信吉の顔を見上げただけだった。びっくりするくらい長い睫毛だった。綺麗だなと思った。信吉は言った。

「あなた、マッチ持ってませんか、ホテルへ帰っても煙草が吸えないんで……」

「今、持ってませんけど……明日楽屋へ持って来てあげますわ」

「楽屋入りは何時……?」

「三時……」

「三時……か。三時までマッチが手にはいらぬとは情けない。売ってないんでね」

わざと困った顔をして、

「町へ出て来るのは、もっと早いんでしょう。その時ホテルの受付へでも届けてやるという親切があなたにあれば、一生恩に着ますよ」

「まア、そんなにマッチが……」

「凄いニコチン中毒でね」