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よるのこうず

夜の構図

織田 作之助

「婦人画報」1946(昭和21)年5月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 62,068 字 · 125 页

青空文庫

「やア――」

と、すぐ起ち上って、寄って行った。

「大分待った……?」

それには答えず、

「マッチは……?」

マッチだけを待っていた顔をした。

冴子はほのぼの笑って、

「あとで……」

地下室のグリルへはいって、向い合って坐ると、

「――二箱持って来たわ。おふくろに叱られたわ。そんなに沢山マッチ持って出て、どうするんだって……。作者にあげるんだといったら、じゃ、三つ持って行けだって……」

「あはは……」

笑いながら、そのマッチをすって、煙草につけた。うまかった。

「あたし、お食事に誘われるのは、あんまり好きじゃないわ」

信吉はむっとしたが、つづいて冴子の言った言葉で機嫌はなおった。

「――今まで何度も誘われたけど、たいてい断ったわ」

「じゃ、今日は例外だね」

「まア、そうね」

「なぜ、断らなかったの……?」

何気なく言って、ちらっと素早い視線を冴子の顔に投げた。

「なぜって……?」

「うん」

返答に困るだろうと、思った。が、冴子は、

「だって、マッチを持って来てあげたんじゃないの」

すかさず言った。

「あ、そうか」

と、ひょうきんに言いながら、この女優大分頭がいいと思った。

すると、信吉はもう食事が済んでから冴子を自分の部屋へ連れ込もうという計画が実行しにくくなった。