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よるのこうず

夜の構図

織田 作之助

「婦人画報」1946(昭和21)年5月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 62,068 字 · 125 页

青空文庫

だから、その新内語りの、良風美徳に反した異色ある言葉など、お上品なプチブル趣味にとっては、まさしくバイキン以上に嫌われ、おそれられるものなのである。

いや、正気の沙汰とは思われないであろう。

第一ホテルのロビイの新聞の暗号によって、毎日――例えば、昨日は午後三時、三五二号室で、今日は午後八時、三三三号室で、という風に――その暗号を読んだ男の誰でもいい、誰か一人を歓迎すべく待っているという謎の美人が、自分の女房で、しかもその女房はかつて姦通したことがある――などという言葉は、よしんばそれが冗談にせよ、人の前で口外してはならぬ言葉であろう。すくなくとも、常識ある人の口から出る言葉ではない。あまりに不道徳すぎる! しかし、信吉は猫でもなければ杓子でもなかったから、道徳家の耳に快よい言葉よりも、たとえ不道徳でも異色ある言葉の方に耳を傾けることを好んだ。

だから、自作の舞台の続きを見ることよりも、その男の言葉に耳を傾けることの方に、逆説的な意義を感じた。

「どうです。そろそろ八時ですよ。あたしの女房に会いに行きたいとは思いませんか、けッ、けッ、けッ!」

新内語りはひきつったような笑い方をした。