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よるのこうず

夜の構図

織田 作之助

「婦人画報」1946(昭和21)年5月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 62,068 字 · 125 页

青空文庫

「驚いたでしょう」

新内語りは低い声で言って、なめるように信吉の顔を見た。

「驚きました」

信吉は一応そう答えたが、しかし、もうこの男が何を言おうと驚かないぞ――と、自分に言いきかせていた。

「あはは……。驚きましたか。あはは……」

新内語りは急に笑い出した。

信吉はむっとした。驚いたでしょうと言って置いて、驚いたと答えると、軽蔑したように笑う――その態度は無礼だと思った。

「いや、ものを書く人間は、どんな目立たぬことにも一応驚くナイーヴな感受性を持っていますがね。しかし、どんな破天荒なことにも驚かない図太さも同時に持っているわけですよ」

「そりゃ、どういう意味ですか」

と、新内語りはきいた。

「つまり、例えばですね。女というものはたいてい結婚の初夜には、見合いの席以外に顔を見たことのない男に、体を許しますね。好きでもないのに。これは実に驚くべき女の受動性ですよ。こういう女特有の神経はものを書く人間にとっては驚異です。いや、ものを書く人間だけじゃない。観念の眼鏡で見ずに、感受性の肉眼でじかに触れてみれば、誰でもこの事実に驚きますよ」

いつか信吉は雄弁になっていた。