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おんなきしゃのやくわり

女記者の役割

野村 胡堂

「文芸倶楽部」1930(昭和5)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,039 字 · 32 页

青空文庫

「困った事が起ったよ、兎に角、その辺までブラブラ歩いて見よう」

両手をポケットに突っ込んだ花房探偵は、千種十次郎を誘うともなく、黙々として、銀座から数寄屋橋の方へ切れます。

「どんな事が起ったんだ、話してくれなきゃ気になるじゃないか」

千種十次郎が斯う言った時は、二人は日比谷公園のロハ台の上へ、二羽の十姉妹のように押し並んで居りました。

もう十時を過ぎたでしょう。銀座あたりはまだ宵の内でしたが、公園の中はすっかり更けて、街の遠音が波の音のように聞くのさえ、何んとなく滅入る心持です。

「実は――」

花房一郎は漸く口を開きました。それでも言っていいか悪いか、暫らく思案をする様子でしたが、やがて思い切った調子で言葉を継ぎます。

「矢張り君には話して置いた方が宜いだろう。実は斯うだ。今日十時頃、園田敬太郎氏から電話で、至急事務所の方へ来て貰い度いと言うのだ。園田氏というと、言うまでもなく前の外務大臣で、今は外交研究会の会長だが、口吻に何んか知ら重大な匂いがあるから、大急ぎで飛んで行くと果して大変――永田町の外交研究会の事務所へ、昨夜泥棒が入って、金庫の中から、一番大切な機密書類を盗んで行ったという騒ぎだ。