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あくまのもんしょう
悪魔の紋章
江戸川 乱歩
「日の出」新潮社、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 151,280 字 · 301 页
ふと立止ると、厚い竹藪の向側に、ガサガサと人の気配がした。重なり合った竹の葉をすかして見ても、薄暗くてよく分らない。何かしら黒い人影が感じられるばかりだ。
「先生、そこにいらっしゃるのは先生ですか」
声をかけても相手は答えなかった。答える代りに、又ガサガサと身動きして、クックックッと、あの何とも云えぬ不気味な笑い声を立てた。
小池助手は、それを聞くと、ギョッと立ちすくんだが、やがて気を取りなおして、いきなり竹藪をかき分けながら、
「先生、ここです。ここです。早く来て下さい」
と叫び立て、顔や手の傷つくのも忘れて、藪の向側へくぐりぬけた。
だが、くぐりぬけて見廻すと、怪物はどこへ逃げ去ったのか、影もない。そして又、八幡の藪知らずの、際しもない鬼ごっこが始まるのだ。
「小池君」
ヒョイと角を曲ると、向うから宗像博士が走って来た。
「どうだった。あいつに出会わなかったか」
「一度声を聞いたばかりです。確かにこの迷路のどこかにいるには違いないのですが」
「僕も声は聞いた。竹藪のすぐ向側に立っているのも見た。しかし、こちらがそこまで行く間に、先方はどっかへ隠れてしまうんだ」