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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

02 第二分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,406 字 · 381 页

青空文庫

「わずかでございます」

「そちの身に要ることか」

「いや」――と、藤吉郎は、城外の濠ばたを指さして、

「御工事は、てまえが致したのではございませぬ。あれに、疲れ果てて、眠り仆れておる職人どもへ、頒けてつかわす程、なにがしか欲しいのでござります」

「そうか。金奉行へいうて、何ほどでも受けとれ。――だが、そちへも何か歓びをつかわそう。そちの禄は今何ほどか」

「三十貫にござります」

「それしきであったかの」

「勿体ない仰せです」

「加増してくるる。禄百貫に取り立て、槍組へ移して、足軽三十名を預ける」

「…………」

藤吉郎は、黙って大地へ辞儀ばかりしていた。

炭薪奉行だの土木奉行だのは、役目だけからいえば、格の高い譜代の士が勤める地位のものであるが、彼の血は多分に若いのだ。やはり戦の前線に立つ弓之衆とか、鉄砲組とか、現役に加わりたいことは、年来の望みであったのである。

足軽三十名を預かるのは、部将の中では最下級の小隊頭であった。けれど、厩にいるより台所に勤めるより、遥かに彼は欣しかった。

その欣しさに、つい前後の弁えなく、藤吉郎は、お礼を述べた口で、うっかりいってしまった。