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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

02 第二分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,406 字 · 381 页

青空文庫

出陣

絶対とは、勿論、死以外の何ものでもない。城内は、その夜、死を直前に見つめながら刻々夜半を過していた。

「――死ぬはいいが、いったいどう死ぬのだ?」

不安といえば、それだけだが、まだ誰の胸にも、決まっていなかった。従って肚のすわり切っていない者もあった。

「お風邪めしますな」

誰かそッと来て、信長のうえへ、小掻巻を掛けて行った。さいと呼ぶ侍女であった。

それから――およそ一刻(二時間)ほども眠ったろうか。残燭の灯皿に、油も尽きて、じじじと泣くような音をたてた。

信長は、むくと、頭をもたげ、突然、呼ばわった。

「さいよ! さいよ! ……。誰ぞおらぬかッ」

出陣

音もなく杉戸が開いた。

侍女のさいは、そこから手をつかえて、信長のほうを見、静かに後ろを閉めてまた、間近まで来て両手をつかえた。

「お目ざめにござりまするか」

「ウむ。さいか。……刻限は今、何刻頃?」

「丑の刻を、すこし下がった頃かと覚えまする」

「よい機」

「なんと御意なされましたか」

「いや、儂の物の具を直ぐこれへ」

「お鎧を」

「誰ぞに申しつけ、馬にも鞍の用意させよ。そなたは、その間、湯漬をととのえてこれへ持て」