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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

02 第二分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,406 字 · 381 页

青空文庫

明智落ち

機会は、今が絶好のようだが、必勝を期して、大策を展べるには――)

と、心ある将士には、自然、信長の肚が解けていた。

犬千代は、信長の深謀よりも、それを行きがけに疾く予言していた藤吉郎という人間に、より以上、考えさせられていた。

「猿、猿と、人も小馬鹿にあしらい、自分もよいほどに視ていたが、あの男は……?」

と、彼は彼を見直して、自分の認識を糺しながら、黙々と、行軍のなかに、足を運んでいた。

藤吉郎も、側にいた。

夜の白む頃、お互いに、顔を見合った。けれど、彼は犬千代に対して、そのことについては何もいわなかった。

「犬千代。おぬしはどう思う。斎藤道三殿は主を殺し、子の義龍は親を殺した。放っておいても、人道のない美濃は亡ぶにきまっているが、それが何日来るかだ? ――。こんどは、義龍のばんだが、その時期は?」

などと話しかけた。

犬千代はもう彼の前では、めったなことはいえないような気負けを覚えていた。そして、この時から、いつのまにか、藤吉郎が自分を呼ぶのに、以前は犬千代殿といっていたのを呼び捨てにしていたが、それもつい、咎められなくなっていた。

明智落ち

北は恵那、西は飛騨や、美濃の山々に囲まれていた。