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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

02 第二分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,406 字 · 381 页

青空文庫

聟の君

「きょうは八月三日だな」

分りきったことを何度も胸の中でただしてみる。時々、押入を開けてみたり、褥に落着いてみたりするが、どうも落着かないし、何も手につかないのであった。

「寧子と婚礼する。おれが聟入りする。いよいよ今夜のことになったが、何だか、急にまがわるいぞ」

祝言のことが知れてから、彼にも似あわず、家の召使たちにも、ひどくこの頃はてれていた藤吉郎であった。聞き伝えて、近所の細君や同役の誰彼が祝い物など持って来ての応対などにも、

「いや、もうその……ほんの内輪の祝言でござって。……まだまだ家内など持つのも、ちと早いと存じてはいたが、どうも、先もいそぐので、止むをえず」

などと顔を赤らめながら、いうことは自分の沽券のいいようなことをいっていた。

前田犬千代に譲らせたり、その犬千代から主筋の名古屋因幡守をうごかしたり、躍起となって、遂に思いを実現させたことなどは、誰も知らないので、

「聞けば、因幡守様のお声がかりだそうな。それにあの浅野又右衛門どのが、聟にとゆるすからには、やはりあの猿どのには、どこか見どころがあるものとみえる」

と、同役はじめ上下の評判は、この婚礼についても、藤吉郎に箔をつけたものにこそなれ、悪い声は生まなかった。