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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
02 第二分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,406 字 · 381 页
「この度の御普請中にも、また、常々にも、てまえ密かに思っている儀にござりますが、当清洲のお城は、どう見ても、水利がよろしゅうございません。籠城となれば、飲料水に乏しく、濠水はややもすれば干上がります。事ある場合は、討って出るしかないお城でございます。――けれど野戦に勝目のない大軍の来襲をうけた場合は」
信長は、そら耳を装って、横を向いてしまった。――が、藤吉郎は、云い出したことを、中途で止めるわけにもゆかないので、
「……手前が常に愚考しますには、清洲よりは小牧山のほうが、水利の便も攻防の利も、遥かに勝っているかと存じます。清洲から小牧へと、お移り遊ばすよう、切におすすめ申し上げまする」
と、献策した。
すると、信長は、
「猿、ひかえろ。図に乗って、よけいな差し出口。――はやく去んで寝ておれ」
睨めつけて叱った。
「……はッ」
藤吉郎は首をすくめた。――教えられた、と彼は思った。失敗は順調の時にしやすい。叱言は先が機嫌がよい時にうっかり喰う。
(……至らぬぞ、至らぬぞ。あのくらいの働きで有頂天になり、その図にのッて、一本窘められるなどは……われながら未熟至極)