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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
02 第二分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,406 字 · 381 页
その日の午過ぎ――
職人その他一同へ、褒美の分配をすませた後、彼は寝もせず、独り首をふりながら、城下の町を歩いていた。――久しく会わない寧子のすがたを胸に描きながら。
(この頃は、どうしているか)
と、寧子を想うそばから、その寧子の恋を、自分へ譲って、国外へ立ち退いた純情一徹な友の身の上をも、彼はしきりと案じていた。
友とは、いうまでもない、犬千代のことである。織田家に仕えて以来彼が心の友とゆるしているのは、前田犬千代一人しかなかった。
(寧子の家へは立ち寄ったろう。牢人して国外へ去れば、いつ再会の日があるやら知れぬ。――立ち寄って一言ぐらいは、何か告げて行ったに違いない)
そう考えられたのである。
実をいえば、彼は今、恋よりも食物よりも、眠くて堪らなかった。三日三晩というものほとんど寝ていないのである。――が、犬千代の友誼と義気と忠節を思えば、安閑と眠りを貪ってはいられなかった。
(惜しい男だのに……)
男は男を知る。なぜ信長に、犬千代の真価が分っていないのか。山淵右近の逆意は、尠なくも、犬千代と自分には、とうから知れていたことである。信長がそれを覚っていないというのが、彼には解せなかった。