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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

02 第二分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,406 字 · 381 页

青空文庫

髪は公卿風の総髪に結い、歯には鉄漿を黒々と染め、鼻下に髭を蓄えている。二年ほど前から肥り気味になって、胴の長い脚の短い生れつきの体が、よけい畸形に見えて来ているが、黄金の太刀や、高貴な織物の小袖袴は、お館の尊厳をつつんで褄先も余さなかった。

ばたばたと、誰かやがて駈けて来た。――義元は、口誦みを止めて、

「伊予か」

と、いった。

人影は、立ったまま、

「いえ。氏真です」

「なんじゃ、和子か」

嫡子の氏真を呼ぶにも、義元は和子とよんだ。この父の子らしい苦労知らずの青年だった。

「はや黄昏れておるのに、庭面へなど出て何をしておった」

「千鶴めを、折檻しておりました。手討にしてくれんものと、刀を抜きましたら、逃げまわって」

「千鶴……千鶴とはたれじゃ」

「氏真が、愛鳥の世話を申しつけておる、召使の女です」

「侍女か」

「はい」

「なんの落度で、女子など、手ずから成敗しやる?」

「憎いやつです。都の中納言家から、この氏真へと、遥けく贈り下された名禽を、疎漏にも、餌をやるとて、鳥籠から取り逃がしてしもうたのではございませぬか」

氏真は小禽が好きだった。名鳥を求めて彼に贈れば、他愛なく欣ぶことを知っているので、都の公卿からも、贅美な鳥籠と名禽は、居ながらに、屋形のうちの彼の住居の坪には集まった。