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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
02 第二分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,406 字 · 381 页
「水の手は断ったか」
「水は、城内に、よい井戸があるので、外部の水の手を遮断しても、遽かに効はございませぬ。――それに冬ともなれば、雪解も蓄えられますゆえ」
「長びくのう」
「…………」
帯刀は、責められたように、無言で頭を下げた。
大高一城を、この附近四ツ五ツの砦で包囲し、完全に糧食の運輸まで遮断しながら、容易に、敵を屈服せしめないでいるのが――無能な長陣のように、自責しているところなので――信長のつぶやきが直ぐ胸にこたえたのである。
「所詮、この分では、年内の落城は覚束ないかと存ぜられます。……で、われわれのみではなく、鷲津砦の飯尾近江守どのにも、善照寺の佐久間左京どの、丸根の佐久間大学どの達も、一挙に、大高へ攻めかかって、踏み潰すに何ほどのことがあろうぞと、度々、清洲表へ意見をさしあげて、御裁決を仰いでおりますが、いつも、わが主君のおゆるしがないために」
云い訳には似てるが――と、思いながらも帯刀がいうと、
「いやいや」
信長は皆まで聞かぬうち、各砦の将士のあせり気味を察して、
「無理いたすな。長陣になるとて斟酌には及ばぬ」
と、いった。
怖ろしく短気に見える信長の一面に、こういう気長な寛度があるのが、帯刀には、ふしぎにさえ思われた。