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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

02 第二分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,406 字 · 381 页

青空文庫

許されて山門をはいると直ぐ、松平元康のすがたが本堂に見えた。

本堂の四屏を取り外して、元康は、床几に倚り、家臣の群れに取りまかれていた。

図面が一枚、大きく、拡げられてある。評議中とみえて、主なる三河衆の顔はたいがいその周りに見うけられた。

酒井与四郎正親。同、小五郎。

松平左馬助親俊。

鳥居才五郎。

内藤孫十郎。

高力新九郎。

その他、天野、大久保、土屋、赤根などの人々、多くは若武者だった。鳥居忠吉のような老臣の白髪鬢は、一名も見えなかった。

「甚七殿が立ち帰りました」

武者のひとりが伝えると、主従一かたまりの顔が、絵図面の上から斉しく振り向いた。

「甚七か。待ちかねていた」

これへ――と、元康の軍扇は彼をさしまねいた。

主将の元康を中心に、酒井、松平、高力、大久保、天野などの譜代は、こもごもに、甚七に質問を発した。

以下――甚七の探ってきた敵状の答えと、誰彼の質問を一束に記録してみれば。

問「陣地視察中ノ信長ハ、猶、前線ニ止マレルヤ否ヤ」

答「清洲ヘ帰城セリ」

問「出陣ノ様子ハ」

答「見受ケラレズ」

問「人数加勢ノ形勢ハ如何ニ」

答「ナシ」

問「兵糧入レノ松平軍ガ、近ヅキツツアルヲ、敵ハナオ知ラザルナランカ」