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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
02 第二分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,406 字 · 381 页
「長門、長門」
信長は、鞍から振り向いたが、岩室長門は、騎馬でなかったので、小半町も遅れている人数の中にいるらしい。
馬首を揃えて、続いて来るのは、柴田権六、森可成。――それに熱田の町の入口から人数へ加わった加藤図書などであった。
「権六ッ」
呼び直して、
「宮の大鳥居が早や見ゆる。熱田神宮の大前にて兵を停めい。信長も参拝して参ろうず」
いう間に、大鳥居の下へかかった。信長がひらりと飛び降りると、約二十名ほどの部下と共に、熱田の宮の祠官でもあり、また神領の代官でもある千秋加賀守季忠が待っていて、
「お早いお着」
と、すぐ駈け寄って、信長の駒を預った。
「お、季忠か」
「はッ」
「迎え大儀である。祈願な捧げ申したい」
「御案内仕ります」
季忠は、信長の先に立った。
杉木立の参道は、霧しずくに濡れていた。季忠は、御手洗の泉屋に立って、
「お嗽ぎを」
と、促す。
信長は、檜柄杓を把って、手を浄め、口をすすいだ。
そして、滾々とあふれる神泉をもう一柄杓掬って、それはぐッと飲みほした。
「見よ! 吉兆ぞ」
信長は仰いでいった。後ろに続く旗本や大勢の兵へも聞えるようにいって、天を指さした。