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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

02 第二分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,406 字 · 381 页

青空文庫

「武田殿が御内にて、原美濃守が三男、仔細な候て、鳴海の東落合に、年ごろ佗住居な仕る桑原甚内ともうす者でござる」

「ほ、原殿が子か」

信長は、小首をかしげた。

「して、これへの用事は」

「されば、父美濃守に申しつけられ、自分幼年中は、駿河の臨済寺にあずけられ、喝食の修業いたしておりましたれば、治部大輔義元殿がお顔はよう見覚えておりまする。今日の御決戦、いずれは乱軍、左候えば、それがし御陣借な申して、必ず、駿河の大輔殿が帷幕に迫り、鉄漿首を打ち取って御覧に入れ奉らんの所存。――願わくば、この槍一筋、あわれお拾い下されませぬか」

「拾おう!」

信長は、野人のように、無造作な大声でいって、

「甚内とやら、甲州武士の見とおしでは、きょうの合戦、信長勝つと見るか、義元優れりと見るか」

「お答えにも及び申さぬこと。御勝利、疑いもござりませぬ」

「理由は」

「駿河公方の年来の驕慢」

「それだけか」

「四万とは号するものの、敵の布陣の拙」

「ウム」

「また、義元殿が本陣は、昨宵、沓掛を出て、今朝からの暑気に、人馬の疲労はもとより、惰気を生じおるべしと存ぜられます。――何となれば、清洲の御人数は余りにも小、彼の驕慢は、すでに、戦わずして勝ったかの如く思いなしておるやと思われますれば」