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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

02 第二分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,406 字 · 381 页

青空文庫

と、どなったが、時すでに、潮の如く、幕中へなだれ込んで来た織田勢は、ついそこの幕の外にも、楠の後方にも、彼方の広い場所にも、雄たけびして、駈け歩いていた。

「敵だッ」

「織田勢だッ」

うろたえ呼ぶ味方の上に、槍が刎ね、燃えさしの薪が飛ぶ。

義元は、楠の大樹を後ろに、ものをいう口を忘失していた。その唇を、黒々と光る鉄漿の歯が噛みしめていた。眼の前の現実を、まだ信じられないもののように立っていた。

義元のまわりには、幕将庵原将監がいた。その甥の同苗庄次郎がいた。侍大将落合長門がいた。近習頭沢田長門守、斎藤掃部助、関口越中守などもいた。その他、

牟礼主水。

加藤甚五兵衛。

四宮右衛門佐。

富永伯耆守。

といった旗本の錚々も、硬ばった顔をひしと並べて、

「謀叛かッ」

「謀叛人かッ」

と、繰り返して呶鳴っていた。

それへ答えるのではないが、すでに営中の彼方此方で、敵だッ、敵々ッ、と叫んでいるのが、耳には聞えているのに、なお、頭のどこかに、

(よもや?)

という気があるため、自分らの耳を疑っていたものである。

しかし、それとて、長い時間ではありえなかった。明らかに織田武士の躍る影を見、身近く尾張訛りの聞きつけない怒号を聞き、二、三、こっちを眼がけて、