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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

02 第二分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,406 字 · 381 页

青空文庫

「いらざること。はやく手伝わせて、酒の支度して来い。まずい手料理など、藤吉郎どのに、お目にかけてみるがよい」

「いや、もう」

と、藤吉郎は、体を固くして、恐縮した。

城内の柴田、林などの、手強い重臣たちからは、ひどく押し太い、厚顔な男と睨まれている彼も、ここでは甚だ羞恥がちな、一箇の好青年でしかなかった。

寧子は、薄化粧して、やがて挨拶に出て来た。

「なんのおかまいも出来ませぬが、父は、この通りはなし好き、どうぞごゆるり遊ばして」

それから、手料理の膳部と、銚子など、楚々と、運んで来た。

「はあ。……はい」

藤吉郎は、又右衛門のはなしには、まるでうつつに答えながら、寧子の身ごなしや、寧子のうしろ姿に見とれていた。

……横顔もいい。

などと思った。

何よりも気に入ったのは、少しも悪びれたふうのない、木綿の生地みたいな、ありのままのところだった。

いやに羞恥んだり、取り澄ましたり――ありがちな女性の媚態がない。

では、ふくよかな女らしさに欠けているかというと、包まれている中に、薄月夜の野の花みたいに香うものがある。ほんのりと、楚々とある。

敏感な藤吉郎の眼や嗅覚がしきりとそれに触れるのであった。