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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

02 第二分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,406 字 · 381 页

青空文庫

「御一献」

と、注がれれば、

「は」

と、素直に受け、

「お箸を」

と、すすめられれば、

「頂戴申す」

と、辞儀して、みな喰べた。

客の食慾をめずらしがるように、義輝将軍はながめていた。

善美や儀式に飽いた将軍家は、信長の喰べるのを見て、年も若いし、田舎者には、都の物が、何を喰べても美味なのであろうと、せめて、そう思うことで、矜を持していた。

「信長」

「は」

「どうじゃの、館の庖丁は」

「結構でした」

「美味か」

「ただ、われら武骨の者には、どのお料理も、塩味がうすうて、かかる味ないお料理は、信長、めずらしく戴きました」

「ははは。むりもない。そちは茶はたしなまぬか」

「飲むすべは、湯の如く、幼きより弁えておりますが、大人のあそぶ茶とやらの道は、不躾みでござります」

「苑を見たか」

「拝見いたしました」

「どう思う」

「小さいと存じました」

「小さい?」

「きれいではありますが、信長の田舎清洲の丘の眺めから較べますと」

「そちには何もわからぬとみゆる。ははは、生もの知りより、あどけのうてかえってよい。したが、そちの躾みとするは何ぞ」

「弓矢。それ以外に、何の弁えもござりませぬ。そのかわり事しあれば、尾張より美濃近江路の敵地もこえて、三日のうちには御所の御垣までいつなと馳せ参ずるが信長の能事にござります。