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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

02 第二分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,406 字 · 381 页

青空文庫

「聟どの。これにおいでか」

襖があいた。藤吉郎はわれに返った。いや聟どのの自身に返って、

「お。これは」

と、そのまま、会釈した。名古屋因幡守の臣で、こよいの名代媒人、丹羽兵蔵夫婦がはいって来たのであった。

「不つつか者ですが、主人因幡守様の名代として、てまえ丹羽兵蔵夫婦が、お媒人役つとめまする。何なと御用仰せ下さるように」

媒人夫婦の挨拶である。

藤吉郎も、ひと通り、

「ご苦労にぞんずる」

と、会釈を返して、勢い聟どのらしく取り澄ました。

媒人夫婦はすぐ、

「縁者どものうち、やむなき用事のため、遅参の者がござって、聟殿にいかいお待たせ申しあげてござるが、さらば早速、これにて、ところあらわしの式仕れば、暫時、それにてお控え下されませ」

と、いう。

藤吉郎はまごついて、

「ところあらわし、とは一体なんでござるか」

「嫁方の舅姑御をはじめ、お身内の縁者どもと、聟どのとの、初の御対面を取り行う古式でござる。――と、いうても、時節がら、また御質素の御家風ゆえ、ほんの顔あわせのみで、さしたる式作法いたすわけでもおざらぬ」

と、いう間に、媒人女房は、

「おざりませ」

と、襖をあけて、次の間にひかえた人々を招く。