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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

02 第二分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,406 字 · 381 页

青空文庫

人目にはそれで程よいもの。――良人の母とか、姉とか、召使とかには、努めてもなお足らぬものだ。――殊にわしは、家に母上の笑顔があり、家族どもがみな嬉々として生活していてくれれば、何よりも自分も楽しいことと思う」

「至りませぬが、精出して、そういう家庭を創りまする」

「それから……もひとつ、わしへのことだが」

「はい」

「さだめし其女は嫁ぐ日までの教養として、貞婦の鑑となるよう、お舅どのからも、厳しい庭訓を数々訓えこまれておろうが、この良人は、そう気難しゅうはない。――其女に頼んでおくことはただ一つだ」

「……それは」

「それはだな……良人の御奉公、良人の仕事、すべて日常のわしの働きを、妻たるおまえも共々よろこんでくれればいい。それだけだ」

「……?」

「やさしいことだろう。しかし、やさしくない。年月長く狎れ過ぎた夫婦を見い。良人が何を働いているか知らぬ妻。良人がいかに欣ばせようと苦しんでも欣べない女房どもが、軽輩にはないが、大身方の奥ほど多い。そうなると良人は、ひとつの張合いを失う。天下国家のために働こうという男も、家にあっては、小さい者、あわれな者、弱い者。わけてわが妻によろこばれるのが張合いだ。