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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
02 第二分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,406 字 · 381 页
「いや、ある」
光秀は、林の外へ歩いて行った。どこかで、戛んッ――と、青竹を伐り仆した響きがしたと思うと、間もなく、一節の切竹を持って帰って来た。
切竹の節に、清水を掬い、光安入道の首級を埋けた大地へ手向けて、二人は、いつまでも合掌していた。
チチ、チ、
ピ、ピ、ピッ……
種々な小禽の声が、檜の密林に啼きぬいていた。二人の頭脳は冷たく澄み、明智ノ庄を落ちて来てから初めて真の吾にかえっていた。
「…………」
弥平治光春は、肱で涙を拭いていた。
父が死んだのは戦場であり、その首級は、二日二夜も抱き歩いていたのであるが、涙がこぼれて来たのは、その時が初めてであった。
「光春」
「はい」
「泣くな。おぬしが悲しむと、わしは居ても立ってもいられなくなる。――叔父御は、わしのために、御最期になられたといってもよいのだから」
「そんなことはありませぬ。武将として」
「……だが。……だが叔父御には、わしの父下野守光綱が臨終の折に、幼いわしを、どうぞ頼むぞと、叔父御へお託しになった――その責任感が、いっぱいにあったのだ。お忘れになれなかったのだ」
「それは常に、父の光安も云い暮していたことでした」