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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

02 第二分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,406 字 · 381 页

青空文庫

「何でも、仰せられませ」

藤吉郎は、寧子の父親が、こうして自分に親しみを示してくれることが、ひどく欣しかった。胸のうちで、期待しているようなはなしでなくても、損得なしに、どんなことでも――と誠意を見せて、彼も膝を改めた。

「ほかでもないが、あれもすでに年頃なので」

「……い、いかにも」

喉が、ひからびて、妙に声がつまった。黙って、うなずいていてもよいのに、何か、相づちを打たなければすまない気がして、時々、いわずもがなのことをいった。

「で――実は、諸所からも、家がらに過ぎた縁談なども持ちこまれ、親としても、取捨に迷うておるわけでござるが」

「いや、大きに、左様でござりましょうとも」

「ところがな」

「はい。はい」

「親が、よかろうと見る者は、あれの気にそまぬ節もあったりして」

「それは、分りますな。女の一生は、ただひとつ、幸も不幸も、のばすその手にきまることですから」

「君公のお側にいつもいる――お小姓衆のひとりじゃが――前田犬千代という青年を、其許も、ご存じであろうが」

「は? ……前田殿で」

と、藤吉郎は、目をしばたたいた。又右衛門の云い出し方が、余りに、唐突だったからである。